NEXT ACTION of Retail vol.3 WEB担当者が絶対に押さえておくべき「ポストクッキー時代のUI/UX」【セミナーレポート】

2021年7月27日、EC支援セミナー番組「NEXT ACTION of Retail」第三回をオンラインで開催しました(株式会社エフ・コード共催)。

今マーケターを悩ませている「3rd Party Cookie廃止問題」。本セッションでは、具体的な対応策の1つとして「1st Party Dataの活用」にフォーカスします。自社サイトに訪問したユーザーの顧客体験をUI/UXの観点からどのように改善すべきか、具体的なテクニックと事例を交えて語りました。

■開催概要
開催期日:2021年7月27日(火) 16:00〜17:30
参加費:無料
視聴形式:zoomオンラインセミナー(100名限定・抽選あり)

■出演者
・吉澤和之 awoo Japan 日本事業開発責任者 執行役員
・荒井裕希 株式会社エフ・コード 取締役 CX事業部長
・北山浩 エース株式会社 営業本部 第三事業部(EC事業部) 次長
・武井慎吾 合同会社DMM.com マーケティング本部 マーケティング部 部長
・石井しおり 九州朝日放送及び北海道文化放送の元アナウンサー

動画をご覧になりたい方はこちら
https://www.awoo.ai/ja/archived_videos/next_action_of_retail_vol03/)

DMMのこれまでのUI/UX設計
ウェブとリアルの両領域で、多岐にわたる事業を展開するDMM.com。現在、21のグループ会社と58の事業を運営しています。武井氏が統括するマーケティング組織は、グループ会社を横断する組織です。各事業が抱えるビジネス課題を解決し、事業収益に貢献することをミッションとしています。

武井氏は、「DMM.com全体で顧客理解を図り、真の体験価値を提供すること」を多事業展開ならではの課題として捉えています。

具体的には、

課題①各事業におけるデータ運用のばらつき
課題②顧客の心理的・情緒的情報の不足
課題③心理的情報の不足による提供価値の質の低さ

の3つを挙げました。

Q.課題③のレコメンドの弊害である「押し付けがましい接客」について、事業者はどうとらえたら良いのでしょうか?(吉澤)

荒井氏:レコメンドやメルマガといった、売上に直結する施策をなくすことはできません。一方で、中長期的なNPS®(ネットプロモータースコア:顧客ロイヤルティを測る指標)を見る事業者様が増えています。短期的には毎月の売上を、中長期的にはNPS®を指標にすると良いのではないでしょうか。

次に、武井氏は具体的な施策について解説しました。


対策①人力による既存データの整備
対策②ゼロパーティーデータデータの取得・活用に向けた環境整備
対策③単一事業単位ではなく、会社全体の利益を鑑みたマーケティング支援の検討

Q.「ゼロパーティデータ」とは何ですか?(視聴者)

武井氏:「ゼロパーティデータ」はユーザーの趣味嗜好やサービスの利用目的・企業へのイメージといった心理的なインサイトです。このデータを取得し磨き上げることで、顧客理解を図り、質の高い接客・体験価値の提供に繋げます。
なお、「ファーストパーティデータ」は、メールアドレスや購買履歴、ページの閲覧履歴、性別や年齢といったデモグラフィック情報などがあたります。

Q.顧客データの統一には、どのようなツールを使いましたか?(吉澤)

武井氏:内製化で対応しました。データ量も多いですし、これまでに構築したデータ格納のベースを活かしました。DMM.comは、事業をグロースするノウハウを持っています。データの活用によって、今後はより早いスピードで動いていけるのではと考えています。

吉澤:前回のNEXT ACTION of Retail vol.2で、元ベイクルーズの加藤氏も同じことをおっしゃっていました。データの民主化を進めて全社員が同じデータを見られるようにしたことで、意思決定のスピードが上がったそうです。
UI/UXの価値とは表面上のテクニックだけではなく、データの整備と民主化を行い、全体の事業にプロットしていくーーーEC事業者にとって、これは大きなヒントになるかもしれません。

エースのこれまでのUI/UX設計
続いて北山氏から、エースの顧客特性や、顧客接点で大切にしていることについて話がありました。

エースの主な顧客は、上質なバッグをお求めの百貨店顧客層と40代アッパー層です。
長く使える丈夫なバッグを作っているので、顧客のタッチポイントは5〜7年に一度。
「少ないタッチポイントの中で、新生活や買い替えのタイミングで『エース』を想起していただけるような施策をしている」と北山氏は述べました。

Q.顧客にとって心地よいブランド想起の施策とは、どのようなものでしょうか?(吉澤)

北山氏:商品の販売だけを目的にメルマガや広告を打つと、お客様は嫌気がさしてしまいます。お客様が欲しい情報を伝えることが重要です。
エースのメルマガでは「バッグのお手入れ方法」や「ご購入から1年経ちましたが、不具合はございませんか?」といった情報を定期的に配信しています。その時はメールを開封しなかったとしても、弊社のブランドを頭の片隅に残していただけるのではと考えています。

Q.「マスク」がヒットコンテンツになった要因は何でしょうか?(吉澤)

北山氏:マスクの販売を開始したのは2020年6月。マスク需要が落ち着き、店頭にマスクが並び始めた頃でした。中国製ということも、お客様に受け入れていただけるか懸念でした。そこで、製造過程の動画や画像、国内の安全基準をクリアした鑑定書などを全て公開しました。
販売開始後から2ヶ月間、200件を超えるカスタマーレビューの全てに目を通して、私が一つひとつコメントバックを行いました。レビューから改善点を洗い出して製品に反映させ、どこをどの生産分から改善したのかを全てアナウンスしました。エースというブランドへの信頼感に加えて、このような情報開示を行ったことでヒットコンテンツになったと考えています。

Q.アウトレットストアの体験設計のポイントは?(吉澤)

北山氏:目的買いの方が多いと想定し、絞り込み機能を充実しました。欲しい商品にスムーズに辿り着けるよう、バッグの形、カラー、サイズ(容量)、ブランド名を全商品にタグ付けし、どんどん絞り込みができる設計にしています。
アウトレットストアではShopifyを使っているのですが、月額20~30ドルでさまざまな機能を簡単に追加できます。良かった機能や施策を本サイトにも採用するといったテストサイト的な役割も期待しています。

ここで、株式会社エフ・コードの荒井氏より、UI/UXの改善のポイントについて解説がありました。

荒井氏は、2つのポイントを提示しました。

  1. コンバージョンに近いところから施策を検討する
  2. サイトが持つ1st Party Dataを活用し、お客様のプロフィールや行動履歴・興味に合った情報を積極的に発信する

具体的な成功事例として、会員登録の入力フォーム改善と、ファッションECのカート離脱率改善の事例を紹介しました。

  • 会員登録の入力フォーム改善
    会員登録のメリットを、登録前だけではなく入力途中やユーザーが離脱しそうなタイミングにも訴求したことで、フォーム完了率が25%改善した。
  • ファッションECのカート離脱率改善
    離脱要因となっていたサイト内リンク(セールバナーやSNSアイコン)をカート画面から削除。買い物をスムーズに完了させることで、購入完了率が18%改善した。

吉澤氏と武井氏は、このような小さな改善を積み重ねて、社内でナレッジを蓄積・共有することが大切だと述べました。

次のトピックでは、武井氏と北山氏が今後の施策について語りました。

これからのDMMのUI/UX

武井氏から、DMM.comのこれからのUI/UXについて説明がありました。

  • 重要なキーワード▶︎データドリブン
    1stパーティデータとゼロパーティーデータを取得して磨き上げ、データをもとに意思決定する。
  • どんなことにチャレンジする?▶︎体験価値の創出
    たとえ事業収益が赤字でも、他のプラットフォームへの送客機能を持つ事業なら拡大するといった観点で意思決定を行う。
  • 変わらずに注力していくこと▶︎顧客を理解し続け関係を築いていく
    当たり前のことを、熱意を持ってやり切る。
  • 変えていくべきこと▶︎マーケティング≠広告
    ウェブ広告に依存しないマーケティング活動に立ち返る。

この4つの考え方を、全社に浸透させていきたいと述べました。

Q.データ活用に関して、社内の理解や共通認識はどのように浸透させましたか?(視聴者)

武井氏:現在、絶賛トライアル中です。データをもとに仮説を立てたアプローチ方法と、既存の方法の両方をトライして、売上や収益といった数値(結果)を実際に見せながら認識を変えていくということを徐々に行っています。

これからのエースのUI/UX

※ 2021 年 10 月より nununi は名称が awoo AI に変わりました。

次に、北山氏から、エースのこれからのUI/UXについて説明がありました。

  • 重要なキーワード▶︎ZERO・1stパーティCookie
    今から取り組みを始め、数ヶ月先、半年先を見据えて地道な努力を続ける必要がある。
  • どんなことにチャレンジする?▶︎awoo AIの可能性に賭ける
    通常の画像のレコメンドでは伝わりにくいバッグのサイズ感や機能の違いを、awoo AIのオートタギング機能を使って「容量」や「機内持ち込み可」といったテキストのレコメンド(ハッシュタグ)で表現する。ユーザーによりわかりやすい提案ができる点に期待を寄せている。
  • 変わらずに注力していくこと▶︎顧客を見ていく/感想をよく聞きプロと一緒に改善していく
    ECサイトの顧客の声に耳を傾けながら、プロ(ベンダー企業など)の力を借りてサイトの改善を積み重ねる。
  • 変えていくべきこと▶︎toBの企業としてユーザーボイスが届かない/聞ける環境つくりを目指す
    リアル店舗(直営店)や小売店に卸して終わりではなく、その先にいるユーザーの声を吸い上げる環境作りを目指す。

業種や業態が異なるDMM.comとエースですが、「重要なキーワード」と「変わらずに注力していくこと」に関して、同じ認識を持っていることがわかりました。

Wrap-up
最後のWrap-upでは、登壇者が本セッションの感想を語りました。

吉澤氏:顧客との関係性を強化してエンゲージメントを高めるには、1st Party Dataの取得と活用が重要なポイントになります。そのためには経営層の理解や、ツールだけでは賄えない人力による環境の構築、それをやり遂げる熱量が大切だと感じました。

荒井氏:今日は、北山さんのマスクのお話が一番印象的でした。その場凌ぎでツールを入れるのではなく、徹底的に顧客理解を繰り返してアップデートを繰り返すーーーそんなマーケターの皆様に寄り添い、お力になれるようなソリューションをご提案できればと思います。

北山氏:お客様をしっかりと向き合わないと、良いプロダクトはできません。今後もお客様と永続的に繋がっていくために、より良い顧客体験を提供していきたいと思います。また、武井さんの考え方とコアの部分が同じだったので、自分の考え方が間違っていなかったと安心できました。

武井氏:僕も、北山さんのマスクのレビューのお話には感銘を受けました。これからも顧客への理解を深めて、より良い体験価値を提供していきたいと思います。
視聴者の方が、人力で泥臭いことに向き合う時が来たら、僕たちの地道な努力を糧にして取り組んでいただけたら嬉しいです。もし、プロジェクトのこぼれ話など聞いてみたいという方がいらっしゃいましたら、Facebookからお気軽にご連絡ください。