NEXT ACTION of Retail vol.2 「ワクチン普及後の小売業界の成長戦略を考える〜元ベイクルーズ加藤氏と語る、これからのOMO〜」【セミナーレポート】

2021年7月14日、EC支援セミナー番組「NEXT ACTION of Retail」第二回をオンラインで開催しました。ゲストに元ベイクルーズ(現 株式会社デイトナ・インターナショナル 取締役 CDO)加藤利典氏をお迎えし、ベイクルーズにおけるOMOの具体的な施策や成功要因について語っていただきました。

メインMCにawoo Japan株式会社 日本事業開発責任者 執行役員 吉澤和之、コメンテーターとして株式会社CaTラボ 代表 オムニチャネルコンサルタント 逸見光次郎氏、株式会社アイスリーデザイン 代表取締役 芝陽一郎氏、MCは元アナウンサー石井しおり氏が勤めました。

コロナ禍で苦境に立たされている小売業者にとって重要なキーワードとなるOMO。

具体的な方向性を模索する事業者様に向けて、OMO戦略のヒントをお届けします。

全体の流れについて

本セミナーでは、

  • ベイクルーズで行った具体的なOMO施策と成功の秘訣(加藤氏)
  • 社内・社外のDX推進の必要性や阻害要因、解決のポイント(逸見氏)
  • 視聴者からの質問

について議論を交わしました。

Omni-channelのポイント

最初のトピックでは、2013年から2016年にかけて加藤氏がベイクルーズで実施した「OMOに至る6つの取り組み」を時系列に沿って解説しました。

加藤氏が一番最初に取り組んだのは、組織改革(1:新ファンクション)。ブランド毎に存在したEC組織を一つにまとめ、ブランド横断型の組織を立ち上げました。次に、エンジニアやWebデザイナー、Webディレクター、マーケター、アナリストといったデジタル人材を積極採用し、決定権と責任を持つEC専門組織を作り上げました。これにより、意思決定とPDCAサイクルのスピードが向上し、インターネットビジネスに関するナレッジの蓄積と社内共有が可能になりました。

新ファンクションの次は、自社ECサイト中心の事業構造への転換を実施。2013年当時、自社EC比率は30%。大手ファッションECモールでの売上が7割を占めていましたが、その比率を半年で逆転させるという目標を掲げました。ブランド側や経営層への理解を得ることが非常に難しかったものの、営業利益の向上や、会社全体の顧客基盤拡大を理由に自社EC中心の戦略へ転換を推し進めました。

その後、「オムニチャネルプロジェクト」を立ち上げ、2014年までに顧客データ・在庫データ・物流拠点・サービスの4つの統合を行いました。

結果、ベイクルーズのECサイトは競合他社に類を見ない急成長を遂げました。

Q.他社に先駆けてオムニチャネルに取り組まれていますね。その先見の明はどのように得たのでしょうか。(吉澤)

加藤氏:世界のトレンドと、お客様の声です。ECサイトの在庫の少なさによる機会ロスや会員サービスの不便さといったお客様の声に耳を傾けた結果、必然的にオムニチャネルという考え方に辿り着きました。

Q.一番インパクトが大きかったのは、在庫データの統合でしょうか?(逸見氏)

加藤氏:そうですね。店舗の在庫をいかにリアルタイムでWeb上で表現するか、裏側の技術は設計含めて非常に大変でした。この頃、アイスリーデザインの芝さんには、スマホ最適化に関するさまざまな要望に対してスピーディーに対応していただき、スマホシェアを伸ばすことができました。

ユニファイドコマースについて

次のトピックでは、2017年以降に実施した「ユニファイドコマース」について、加藤氏から実施の背景と具体的な取り組みについて説明がありました。

オムニチャネル戦略のグランドデザインが8割方完了した段階で、次に「ユニファイドコマース」に取り組むことを決めた加藤氏。きっかけは、自社EC化率が20%を超えた2016年頃、顧客がさまざまなチャネルを使い分ける「チャネルホッパー」に変化したことです。さまざまなタッチポイントにおいて、顧客が買いたくなる仕組みや体験価値をあげるような仕掛けを作ることが重要だと加藤氏は考えました。

いつでもどこでも買い物ができる「オムニチャネル」から、リアル店舗とECの垣根を完全になくしてデータをリアルタイムに共有し、個々のお客様のニーズに沿ったサービスを提供する「ユニファイドコマース」へ。振り返るとこの戦略が成長をドライブした、と加藤氏は述べました。

Q.ユニファイドコマースの実現において、一番注力した点と大変だった点は?(吉澤)

加藤氏:全部ですね(笑)。特にコロナ禍で活きてきたのは、デジタル接客です。ECサイトはリアル店舗に比べると接客機能が弱いので、店舗スタッフの協力を得て、チャット接客やライブコマース、オンライン接客、動画コンテンツを強化しました。緊急事態宣言中は、

休業店舗の販売員を有効活用できました。スタッフのECへの貢献度をきちんと可視化して公平に評価したいと思ったことも、デジタル接客に取り組んだ背景の一つです。

Q.CRM(MA)の強化のポイントは?(吉澤)

加藤氏:基本的な考え方としては、オンラインとオフラインのデータを活用して、リアルタイムな接客が実現できる世界を目指すこと。ポイントは、お客様一人ひとりの行動を可視化し、100本近いシナリオを作成してメンテナンスを継続したことです。結果、配信タイミング・配信頻度・配信チャネル・配信情報の最適化がある程度実現できたと思っています。

逸見氏:MAツール活用において、シナリオのメンテナンスは非常に重要です。これができたところが加藤さんの組織の強さだと思います。

Q.EC組織の具体的な構成を教えてください。また、チームビルディングで大切にしていることを教えていただけますか?(視聴者)

加藤氏:200名のうち、マーケターやエンジニアといった専門職チームが約80名、ビジネスチームが約120名です。採用自体も大切ですが、採用したパートナーの定着率向上が大切だと思っています。失敗を恐れずにチャレンジするカルチャーの醸成と、モチベーションの維持が重要だと考え、他社交流を目的としたミートアップの自社開催や、社内勉強会を行っています。

Q.物流の統合について、詳しくお聞かせくいただけますでしょうか?(吉澤)

加藤氏:ECサイトと実店舗の在庫と物流倉庫を全て一元化しました。

オペレーションもBtoB、BtoCを統合し、クラウドのように人をアロケーションできるような組織に変革しました。繁忙期に、状況に合わせて人員を配置できます。

物流倉庫は5拠点あったものを、EC・店舗含め1つに集約しました。結果、商品入荷からささげ(EC用の撮影・採寸・原稿作成)を通ってECで販売するまでのリードタイムを圧縮できました。店舗に商品が並ぶのとほぼ同じタイミングか、一日遅れくらいでECで販売開始しています。

Q.BtoB、BtoCの統合で大変だったことは何でしょうか?(視聴者)

加藤氏:SOP(Standard Operating Procedures)という標準作業手順書の作成と修正・スタッフへの指導です。それこそ毎日のように倉庫に張り付いて、スタッフと一緒にやっていました。

逸見氏:数字責任を持つ人がちゃんと見てあげないと、倉庫立ち上げはうまくいかないですよね。

加藤氏:緊急事態宣言中、物流倉庫は最後に残された巨大な店舗みたいなものでした。顧客向けの出荷(BtoC)が増えたので、BtoBのメンバーをBtoCに寄せるというオペレーションができたことはとても良かったです。優秀な物流メンバーに恵まれて、本当にありがたかったです。

DXの取り組みのポイント

次に、ユニファイドコマース実現のためのDXの取り組みについて、加藤氏から説明がありました。

加藤氏が最初に取り組んだのは、データの民主化です。誰でもデータにアクセスでき、データによって意思決定ができる仕組みを構築しました。具体的には、カスタマーデータプラットフォームの構築とアナリストの採用、BIツールの活用です。

次は、350全方位支援プログラムです。ECの内製化によりナレッジが蓄積したことで、事業部側とのリテラシーのギャップが生まれました。そこでナレッジを持つECメンバーがブランド(事業部)側の課題を解決することで、会社全体のリテラシー向上を図りました。例えば、商品軸の分析ではなく顧客軸の分析を提案し、KPIやアクションプランの設計まで一緒に行うといった形です。

「最も重要視したのは、データドリブンのカルチャーを醸成すること」と加藤氏は説明。会社の上層部だけではなく全社員が同じデータを見ることで、会社全体で意思決定のスピードが上がったと述べました。

Q.逸見さん、DX推進のポイントについてご説明いただけますでしょうか?(吉澤)

 

逸見氏:はい。社外/社内DX推進のポイントは、顧客サービス面と社内業務を同時にDXすることです。社外DXとは、お客様向けのアプリやEC・ネットサービス・店舗といった全てのサービスをお客様にシームレスに提供できる状態にすること。そのために社内DXを推進し、顧客情報の統合、物流一元化、組織の評価軸の整理などを同時に行います。

続いて、逸見氏は「組織変革を成功させるのも失敗させるのも全て人に要因がある」と説明。顧客満足だけではなく、従業員満足を高めてモチベーションを維持することが非常に重要だと述べました。それに対し、加藤氏は「担当者が腹落ちするように丁寧に説明するようにしています。腹落ちすると仕事のパフォーマンスは2倍以上上がります。」とコメントしました。

アフターワクチンの取り組み

最後のトピックでは、2021年以降、ワクチン普及後はどのような施策に重点を置くかを議論しました。

Q.外出自粛が解除されたら、リアル店舗にいく人が増えますよね。リアル店舗とEC含め、どのような体験設計をしたら良いのでしょうか?(吉澤)

加藤氏:クロスユース・クロスチャネルがさらに増えると思います。コロナ禍により、ECサイトを初めて利用する方(チャネル転換者)が増えた結果、ECで購入するベネフィットが一定の理解を得たと思います。また、店舗DXも活性化し、デジタルストアのようなOMO文脈に沿った店舗も出てくるのではと思います。逆に、店舗ならではの体験価値を大切にする「The・店舗」のようなお店も出てくるのではないでしょうか。

ECサイトにおいて、ぜひ表現したい購買体験が2つあります。

一つ目は、EC店舗では表現が難しいエモーショナルな購買行動、偶発的消費の購買体験です。二つ目は、友達と一緒に買い物するというようなショッピング体験のシェアです。この2つの店舗ならではの体験を、Web上で何とか表現できないかと考えています。

吉澤:衝動買いや偶発的消費をデジタル化するというawoo AIのビジョンに共感いただきありがとうございます。偶発的消費やウィンドウショッピングのような体験をEC上で表現することを重要視されていらっしゃるということですね。

加藤氏:そうですね。レコメンドベースになりがちなWebで、「この商品に出会えた」という偶発的消費体験を表現していきたいです。

Q.芝さん、afterコロナの世界でUI/UXの体験価値はどう捉えたら良いのでしょうか?(吉澤)

芝氏:さまざまなクライアント様とお話しさせていただくと、ECサイトでは売れ筋商品が固定されがちですが、店舗では偶発的消費による売上が存在するという話がよく出てきます。ユーザーに対して、商品と出会う機会をより多く与えるという設計は非常に大切だと思います。

最後、登壇者によるWrap Upでは、加藤氏のチームビルディングやチャレンジ精神が再び話題に上がりました。「加藤氏のように、まずは第一歩を早く踏み出して、一つ一つ積み上げていくことが大切だということを学んだ」と逸見氏はコメントしました。

また、加藤氏は「これまで行ったOMOやオムニチャネル施策を時系列で振り返ることで、

ワクチン普及後の消費行動やマーケットについてヒントを得ることができた。参加されている皆様にも何らかのヒントをお届けできていたら嬉しい」と締めくくりました。