ここ数年で越境ECに参入する企業は増加し、オンラインならではの市場シェア拡大が狙えることで注目を集めてきました。越境ECの登場で様々なニーズを満たすことができるようになり、全体的な売上高も急成長している一方で、オンラインであってもその国のニーズなど市場や購買習慣が異なることから、課題も少なくありません。今回は日本から世界への越境ECについて、越境ECについて知りたい方、導入を検討している方に向けて、基本的な知識から現状の課題と対策、参考例などを紹介しています。
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越境ECとは?基礎知識から急成長の背景、課題までを徹底解説!
越境ECとは?
越境ECとは、国境を越えて行う電子商取引(EC)のことです。国内のみならず国外においてもシェアを広げられることで、新たな顧客を開拓できるほか、来日観光客が日本で購入した商品が気に入り、リピートしたい場合などのニーズに答えることができます。越境ECが注目され始めた当初は、大企業であっても苦境を強いられ、惜しくも撤退してしまったケースも少なくありませんでした。しかし、近年では越境ECを攻略するコツが認知され始め、そのハードルも低くなっています。
オンラインショッピングが世界的に主流となっている今、越境ECに参入しようと考えている企業は少なくないでしょう。実際に越境ECの市場規模は拡大しており、日本国内においても海外のECサイトから商品を購入するといったことはもはや一般的となりました。
世界と日本の越境EC市場規模
下記は、経済産業省(2019年)「我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」より、全世界の越境ECの売上高推移と予測値を表した越境EC市場規模のグラフです。2014年以降より上昇を続けており、この伸びは今後も続いていくと予想されています。
引用元:経済産業省(2019)より図7-6「世界の越境EC市場規模」を引用
また、日本との越境EC取引が盛んな国と言われているのが中国とアメリカであり、下記は経済産業省(2019)の発表した各国間の越境EC市場規模の図です。日本だけに限って説明すると、2018年には中国からの売上は1兆5,345億円、アメリカからの売上は8,238億円でした。中国とアメリカだけでも、これだけ大きな市場規模があるということがわかります。
引用元:経済産業省(2019)より図1-8「越境EC市場規模」を引用
越境EC急成長のナゼ
それでは、なぜ全世界で越境ECの市場規模が拡大し、日本も越境ECによる国外のシェアを擁しているのでしょうか。企業側と消費者側の二つの側面から、以下の理由が挙げられます。
〈企業側〉
市場を大幅に拡大するチャンスがある
少子化やグローバル化が進む中、日本国内の消費力が低下されることを見込んで海外に市場を求めるケースが増加しています。そんな中でも越境ECは、インターネット社会における国外市場の開拓に非常に適しています。近年ではデジタルマーケティングの方法も多様化しており、宣伝から商品の購入まで全てをインターネット上で完結できるため、今後はさらに活発化すると考えられます。
・訪日観光客のリピート購入が盛ん
観光で訪日した外国人が、帰国した後に日本にて購入した商品を気に入った場合、越境ECがあれば手軽にリピート購入が可能です。一時期「爆買い」が流行しましたが、これをきっかけに特定の製品を再度購入したいというニーズが更に高まり、越境ECの需要も高まりました。実際に先述したように、日本の越境ECの売上は中国が非常に多いことが確認されています。
・現地に実店舗を持つよりも低コスト
越境ECに参入する大きなメリットとして、海外にて現地に実店舗を持つより大幅にコストダウンできるという点があります。テナント代や人件費を削減できるだけでなく、方法によってはリスク自体も低く抑えられることが可能になります。
〈消費者〉
・自国ではなかなか買えないアイテムがゲットできる
グローバル化が進む今日でも、実際には欲しいと思った外国の商品を近くの実店舗で気軽に購入できないことがほとんどだったりします。そんな時に頼りになるのは、やはりオンラインショッピングです。
・偽物などを避けることができる
オンラインショッピングにも様々な種類があり、企業でなく一般消費者間で取引が行われるようなサイトも盛んです。このようなサイトでは、外国の商品を転売する形で販売しているケースも多く見られますが、偽物を販売していたり、購入した商品が実は中古品で品質が悪くなっていたりという問題も発生しています。そんな時、公式の越境ECであれば安心して購入できるという利点は消費者にとって非常に重要なポイントなのです。
越境ECにはどのようなパターンがある?
越境ECの市場がなぜ急成長しているのかわかったところで、次は参入にどのようなパターンがあるのかを見ていきましょう。以下は越境ECのパターンとその概要についてまとめた表です。越境ECの参入パターンには大きく分けて6種類あり、企業の規模や商品のカテゴリ、対象となる国や地域、流通量など様々な要素を考慮して選択します。
パターン | 概要 |
国内自社サイトの多言語対応 | 自国で運営しているECサイトを多言語対応にし、越境ECを行うパターンです。海外現地に倉庫などを持たない場合はこの方法が比較的手軽であり、日本からEMSなどを利用して配送するケースが多く見られます。 |
海外現地自社サイト設立 | 国内の自社サイトとは別に、海外現地にて自社サイトを制作して運営するパターンです。自社の商品が既に知名度を持つ企業に多く見られます。 |
国内越境モールへの出店(出品) | 国内における越境EC対応のモールに出店または出品するパターンです。そのモール自体が様々な国からの注文に対応しているか、Buyeeなどの転送サービスと連携しているケースがあります。同時に国内の消費者にも販売できることが多いです。 |
海外ECサイトへの出店(出品) | 海外におけるECサイトへ出店または出品するパターンです。通常その国の言語を理解できる必要がありますが、中国などの場合は大手ECサイト(モール)が非常に強いため、このパターンを利用した方が良いケースもあります。 |
通常貿易型EC | 通常の貿易モデルと同じように取引をして、海外現地のECサイトが自社に代わって販売を行うパターンです。 |
保税区モデルEC | 保税区とは、税関が監督管理する特殊閉鎖区域(※)のことで、保税区にある保税倉庫にて保管していた商品を受注次第発送するパターンです。全体的な配送コストや時間を削減できるため、現地での人気商品などの販売には適しています。 |
越境ECの運営パターンの選択を慎重すべきなのには、理由があります。国や地域によって、ECサイトの利用習慣が異なるため、パターン選択を間違えてしまうと思ったより売上が伸びず、コストだけがかかって結果的に撤退しなければならないという事態が起きてしまいます。
例えば、中国では「天猫」や「京東」などといったECモールが現地法人でなくとも出店できるようになり、これらのECモールはシェアが圧倒的ということもあって、大手ブランドも出店しています。この状況を考えると、自社独自のECサイトを構築して進出してもなかなか認知してもらえない可能性があるということがわかります。
越境ECの課題と対策
越境ECに取り組むにあたっては、国内でのECサイト経営とは異なる課題があります。
主な課題としては、以下のような例が挙げられます。
・日本から海外へ発送する必要があるため、配送料や手数料が高い
・関税、輸送における取引の規制が多い
・紛失リスクなどの物流トラブルが起こりやすい
・販売先の国や地域によって法律が異なるため、リスクを見落としがち
・現地習慣に沿った決済方法の選別と外貨決済による為替変動リスク
・販売先の国や地域の言語に対応できるか
・集客方法、ニーズの見極め方、在庫管理などが国内ECの運営とは異なる
主に輸送関連の問題と法律、販売先の文化や習慣の違いに関する課題が多く見られます。輸送関連や法律については事前にしっかり調べ、リスクについて把握し、何か起きた時の対応についても考えておく必要があります。例えば商品が配送中に紛失した場合などを想定し、お客様への対応などは決めておく必要があります。
また、販売先の文化や習慣の違いについてはその国や地域の研究及び市場調査を行い、理解を深めることが重要です。その際には、現地の言語への対応が必須であると言えるでしょう。越境ECに参入する場合には、十分な人的リソースの確保が可能かどうかを考慮しておきましょう。
参考にしたいサイト一覧
最後に、越境ECのサイト事例を少し紹介します。自社サイトを海外対応可能にしている例や、越境ECサービスの提供を行う企業の例を調査してみました。
asos
asosはイギリス発の大手オンラインファッションECサイトです。レディースとメンズ両方の様々なブランドを取り扱っており、衣料だけでなくホームグッズやスキンケアなども取り扱っているほか、自社オリジナルブランドも販売しています。様々な国から購入することが可能で、価格表記も購入場所に合わせて調整されるようになっています。
Farfetch
FarfetchもオンラインファッションECサイトですが、主に高級ブランドを扱うセレクトショップが集まるサイトです。こちらも様々な国への配送に対応しており、一部に限られていますが国によっては価格表記が現地に合わせて調整される仕様になっています。また、表記価格に輸入関税の手数料も含まれているため、基本的には受け取り時に別途関税が徴収されないよう設定されています。商品は各セレクトショップから届きますが、サイトはいくつかの国に支店を置いて運営されています。
ebay
ebayとは、世界最大とも言われるネットオークションのサービスです。世界各国で展開されており、異なる国の間でも取引が頻繁に行われているため越境ECサービスの一つとして機能しています。新品から中古品まで取引されており、あらゆる分野の商品を販売できるのが特徴です。オークションのため最初は値段と製品のニーズにおけるバランスを掴むことの難しさがありますが、ニッチな市場を開拓できるチャンスは豊富でしょう。
Amazon
実は、お馴染みのAmazonでも越境ECの展開が可能です。様々な国において運営されているAmazonですが、基本的には各国に合わせたマーケットプレイスを利用するシステムになっています。しかし、「Amazon global selling」というサービスが提供されており、登録料や手数料を払うことで国内から他国のAmazonに商品を出品することができます。世界最大規模のECサイトというだけあり、競争が激しい一面もありますが、ある程度人気がある日本ブランドでなかなか現地にて購入できない物など、市場が見込めていれば最適な方法と考えられます。
Buyee
Buyeeは、tenso株式会社の運営する海外在住の顧客に代わってヤフオクやYahoo!ショッピング、zozo town、楽天などの商品を代理で購入・配送するシステムです。簡単に言うと、海外の顧客と国内ECサイトの間に入ってサポートを行っています。越境ECに参入したいけれど、新たにホームページを設立したり海外のECサイトに参入するのはちょっと…という企業にもハードルが低く、現在多くのECサイトが利用しています。
最後に
いかがでしたか?今回は、越境ECの現状と参入方法、課題と対策などについてまとめてみました。今後、越境ECに参入する企業は更に増えることが予想されます。参入するにあたって、現地の市場動向や法律の理解はもちろんのこと、自社の提供する製品に最適な越境EC参入方法は何かといった観点からしっかり考える必要があります。