日本のトップマーケターからの提言 -Interview- パーソナライズの限界、その先に見える偶発的消費

株式会社JTB Web販売部戦略担当部長 Data Science Central 統括 福田晃仁

博報堂グループのスパイスボックスでデータサイエンティスト兼DMPコンサルタントとして顧客分析サービスを構築。日本オラクルでDMP/MA分野のコンサルティングなどを担当した後、2018年4月から現職。同社における基盤、分析、施策の3領域とともにデータマーケティングを統括する。

旅行の形態は、ライフスタイルや価値観の多様化と比例してより複雑になった。また、デジタルネイティブ世代が消費の中心になっていくことも相まって、旅行業界のデジタルシフトはいまや急務である。特にコロナショックによって消費者の旅行に対する価値観も随分と変わってしまった。こうしたなか、トップマーケターはどのようにしてこの困難な課題を乗り越えようとしているのか。今回は、大手旅行会社JTBのWeb販売部のマーケティング戦略を取り仕切る福田氏に話を伺い、今後旅行業界がデジタルトランスフォーメーションを推進するにあたって必要な要素は何か、話を伺った。

インタビュアー:awoo Japan吉澤

【吉澤】いまのJTBにおけるデジタルマーケティングの状況を教えてください。

【福田】現在はあらゆる顧客データを集約する基盤のアップデートをしているところです。

【吉澤】CDP(カスタマーデータプラットフォーム)の構築という意味ですか?

【福田】そうです。オンライン・オフライン含め、弊社はお客様とのタッチポイントがたくさんあるので、各チャネルのコミュニケーションを最適化するために、まずはあらゆるデータをマーケティングに生かせるよう、統合・整理しているところです。

【吉澤】主にどのようなコミュニケーションの設計を考えていますか?

【福田】一昔前はデモグラフィック属性でセグメンテーションするのが通例でしたが、今弊社が強化して取り組んでいるのは、顧客の細かなニーズやコンテクストを使ったマーケティング施策です。特に旅行の場合、年齢で区切ってもあまり意味がありません。ハワイ旅行で例えれば、ハワイが大好きで何回も足を運んでいるユーザーか、ハワイに一度も行ったことのないユーザーかによってアプローチする商材は変わってきますが、そこに年齢や居住地といった情報は関係ありませんよね。必要なのは、そのユーザーのモチベーションやペインなど、ごく個人的なマインドに直結した「ニーズ」と「コンテクスト」です。よりその精度を高めるために、あらゆるデータを統合しているところです。

【吉澤】旅行となると、いろんな購買動機や心理的要素が絡んできて、コミュニケーションは難しそうですね。

【福田】そうですね。おっしゃる通り、次に何を買うか(どこに行くか)のロジックは予想しづらいです。しかし、必ず何かしらの要素はそのマインドの裏に隠れていると思うんです。例えば、面白いファクトがあるので紹介しますと、50〜60代の中年女性のグループで旅行する場合、我々のデータだと、彼女たちはステーションホテルに泊まる傾向があるんですね。それは何故かというと、これは推測ですが、地図を開いて行動するのが苦手で、駅前のほうが移動が楽で重い荷物を持ち運ぶ必要もないし、家族がいて帰ってから夕飯を作らなければいけない、といった人たちが多いため、「駅近のホテル」にニーズがあるんですね。

【吉澤】面白い洞察ですね。

【福田】こうした特定のグループをファクトベースで調べていくと、特徴的なセグメントは300近くに及びました。

【吉澤】そうしたセグメントが、コンテクストを使ったマーケティングに生かされていく、と。

【福田】そうです。でも、どうやってアプローチを最適化するべきなのか、という議論はまだ残っていて、そこでピンと来たのが、吉澤さんが提唱している偶発的消費でした。デジタルマーケティングをやる以上、パーソナライゼーションのアプローチは重要ですが、一方で、そこに限界を感じているのも事実です。顧客を主語にして、その人に最適なコミュニケーションを取ろうと思っても、結局のところ「分からない」ことが多いんです。結局は、いくつかの選択肢を提示して、顧客自らが選んでいく体験をさせるのが良いのだと感じています。そこで、偶発性というキーワードがしっくりきました。

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