小売業界必見、セレンディピティを引き起こす3つのデジタル施策

消費者はいま、小売業界に対して何を求めているのでしょうか。そのヒントを握るのが「セレンディピティ」(偶発的消費)です。次のEコマースの形を作るその具体施策とは?セレンディピティを引き起こす具体的な3つの施策について紹介します。

消費の世界のセレンディピティ

セレンディピティとは、思わぬ発見によって得られる素敵な体験、という意味を指します。意図せず、偶発的に何か運命的なものに出会う体験、とも言えるでしょう。普段からみなさんもこうした体験をしていることだと思います。例えば「ビビッときた」とよく言うように、一目会っただけで誰かを好きになってしまったり、ぷらぷらと街で買い物をしていたら、全く買う予定のなかったにも関わらず、お気に入りのアイテムを見つけてしまって衝動買いをしてしまったり、普段の生活の中でもたくさんのセレンディピティが眠っています。

小売業界におけるセレンディピティとは、先ほど例にあげた「衝動買い」が最も分かりやすい例でしょう。買う予定がなかったということは、その人の頭の中には少なくとも具体的なイメージとして、その商品を思い描いていなかったということです。しかし、イメージしていないのにどうして「買おう」という気になってしまうのでしょうか?

これには「趣味嗜好」が関係してきます。そもそも、人の趣味嗜好は幅広く、膨大で複雑な個々の価値観に付随して成り立っているものです。「趣味はなんですか」とよく問われることがあると思いますが、そこで言える趣味は、自分の趣味嗜好のほんのごく一部であり、たまたま、今の自分が「より強くこだわりを持っているもの」が想起されているだけに過ぎません。

若い頃はサッカーをしていたが大人になってゴルフを始めた、全く興味なかった将棋を突然始めるようになった、など、ライフスタイルが変わったり、人生のステージが変わるとよく趣味も変わることがありますが、すべては自分の内面的な価値観に紐づいて、無意識のうちに「ゴルフ」や「将棋」が紐づいているのです。

セレンディピティとは、その「無意識にある表象」が立体的に目の前に現れたときに起こる、価値観と表象のマッチングなのです。

セレンディピティ消費と呼ばれるものも同様です。無意識のうちに、その人の価値観に紐づく商品やサービスが目の前に現れ、それを受け入れたとき、衝動買いという心理状態が発生します。

五感のデジタル化

このセレンディピティ消費は、百貨店やショッピングモールのようなリアル店舗において重要とされています。訪れる客層に応じてテナントの企業を誘致し、配置を行い、「楽しい買い物」体験を提供することが、彼らの大きなミッションだからです。何百軒にも及ぶたくさんのブランドが軒を連ねることで、偶発的な出会いの確率を上げることができます。

しかし、2020年春から始まったコロナショックによって、リアル店舗での買い物が著しく制限されてしまうようになりました。特に緊急事態宣言下においては、休業を余儀なくされたり、営業時間が短縮するなど、リアル店舗の経営は大きな危機を迎えました。

やがて、リアル店舗から足が遠のく消費者は、そうした偶発的消費体験をデジタルの世界でも望むようになります。

この動きは消費の世界に限らず見られます。例えば「zoom飲み」という言葉が流行しましたが、これは居酒屋文化をデジタルに移行させました。他にもライブチャットが2020年のコロナ禍で大きく成長したのも、友達とリアルで会えない寂しさをデジタル空間で満たす欲求です。

これらに共通して言えることは、「リアルでしか味わえない五感による体験」をデジタルに置き換えようという試みです。半ば強制的にこうした試みが広がったことで、人はデジタルという空間を自分たちの生活に欠かせないファクターへとアップデートし始めているのです。

消費の世界でも同様です。リアル店舗での買い物が制限をうけるなか、消費者はデジタルの世界にその再現を求めるようになります。すなはち、偶発的な出会いの場をEコマースでも実現することで、ユーザーにリアル店舗同様の価値提供をすることが求められているのです。

セレンディピティを引き起こす3つのデジタル施策

実際、その動きをいち早く察知した事業者は様々な取り組みを始めています。最後にその具体的なマーケティング施策を紹介しておきましょう。

ライブコマース

1つ目は「ライブコマース」という手法です。店舗スタッフが中心となってライバー(配信者)となり、スマホを通じてライブ配信を実施。商品の特徴などをリアルタイムに紹介したりすることで、店舗にいるかのような疑似体験をデジタル上で再現する試みです。

ウィゴー 店舗発のライブコマースに手応え

https://senken.co.jp/posts/wego-live-commerce-200430

ネット上の買い物はどうしても一方向的です。そこにインタラクティブなコミュニケーションを提供することで、ソーシャルコマースという概念を取り入れました。また、特にWEGOのようなアパレルの業態では、動画による配信によってもう一つの大きなメリットを享受します。それはサイズ感や着心地などのディティールを表現できることです。店員やインフルエンサーのようなライバーがモデルとなって、実際に試着して全体のバランスを見ることができます。既存の商品ページでは見にくかった細部が確認できる点は、ライブコマースの大きな特徴でもあります。

こうした双方向のコミュニケーションが、人の趣味嗜好の感度を高くさせ、セレンディピティを引き起こすトリガーになり得るでしょう。しかし、配信する人が限定されたり、逆に見る側も一部のファン層にしかウケない可能性もあり、大きく成長するビジネスモデルかというと、そこは難しい課題もあると思います。

チャットコマース

2つ目は「チャットコマース」です。こちらも「インタラクティブ性」という点ではライブコマースと同じですが、それを動画ではなく、チャットによって再現しています。チャットの多くは「ボット」と呼ばれる人工知能あるいはルールベースによって生成され、ある程度自動化している点も特徴的でしょう。

このチャットコマースのセレンディピティ要素は「対話」です。前述したように、人は自分の趣味嗜好を実はそこまで深く理解していません。そこで、対話によって生まれる偶発性によって、思いもしなかったアイテムに出会える確率が高まります。

ユーザーの行動データなどからその人の趣味嗜好を特定し、パーソナライズなおすすめ商品をレコメンデーションするというやり方は、チャットコマースにおいて欠かせないマーケティング施策です。まさに、リアル店舗と同じような「接客体験」をデジタル化した事例です。

一方、課題もあります。それはAIの精度の問題です。パーソナライゼーションのロジックは何かというと、主にその人が「何を見たか」と「何を買ったか」という2点に紐づきます。この場合、ある程度その人の顕在化した趣味嗜好にはたどり着きますが、潜在的な需要、偶発的な出会いの確率は低いかもしれません。その点において、店舗スタッフの接客と同程度の、人と人とのコミュニケーションに見られる偶発性の再現は難しいでしょう。

タグ接客

最後は「タグ接客」です。これは、SNSでよく見られる「ハッシュタグ」を使った接客方法です。例えば「#パーカー」というタグが商品カテゴリーや商品詳細ページに貼り付けられており、そのタグをクリックすると、「パーカー」に関する商品が見られる、というようなものです。実はこの手法、「タグ接客」という形でマーケティング施策としてしっかり実施している企業は多くありません。どの企業も、商品ページの片隅にタグを配置しているだけで、あまり有効活用されていないのです。

実は、このタグ接客には大きな可能性が秘めています。なぜなら、デジタルで偶発性を再現するには、テキストが実は一番効果的だからです。リアルの店舗の場合は、実際に手にとって、触って、五感でその商品を感じることができますが、Eコマースの場合はどうしても五感で感じにくいというデメリットがあります。そうなると、画像で商品をみても、どんな商品かが理解しにくく、細かく理解するには、たくさんの写真を見ないといけません。

そのハードルをクリアするために、商品1つ1つにたくさんの写真をアップして、細部まで確認させるのです。これはアパレルに限らず、例えばホテルや旅館の予約でも同じことが言えます。

一方、テキストは、瞬時にその言葉の意味を理解できます。「ひらめき」という点において、実はデジタルとテキストの2つは相性が良いのです。だから、インスタグラムやツイッターではハッシュタグを使っています。

下の画像は、我々のawoo AIを使って「タグ接客」を実現した例になります。どうでしょうか。複数のキーワードが羅列されていますが、どれも一瞬見ただけで自分の趣味嗜好に合うキーワードがどれなのかが判断つくと思います。

このように、実はハッシュタグはデジタルにおいて「偶発性」を再現するには最適な施策なのです。

偶発的消費をデジタルでも再現へ

awoo Japanのビジョンは、偶発的消費をデジタルで再現し、より良い買い物体験を消費者に届けることです。偶発的消費、すなはち今回のブログのテーマである「セレンディピティ」については、様々な可能性が満ちています。

偶発的消費は今後の消費経済の重要なテーマでもあります。体験経済化した現代の消費文化において、「楽しい買い物」をアップデートするキーワードなのです。

Writer. awoo Japan 日本事業開発責任者 吉澤 和之