2022年5月19日、EC支援セミナー番組「NEXT ACTION of Retail」第7回をオンラインで開催しました。(株式会社ブレインパッド共催)
Cookieによるユーザー追跡が難しくなるなか、「誰に何を届けるか」というシンプルな問いが、デジタルマーケティングの重要なテーマとしてクローズアップされています。ユーザーの行動データを蓄積しマーケティングに生かすCDP(=Customer Data Platform)と、マーケティングオートメーションの手法は今後どのように進化すべきなのか? 商品データを活用する『商品理解(=Product Data Platform)』という新しい概念によるCX設計とは?消費者データと商品データ、この掛け算によって、何が新たにもたらされるのか?
ブレインパッド、awoo Japan両社主催による、今後のEコマースの新たな世界線を占うパネルディスカッションをお届けしました。
■開催概要 開催期日:2022年5月19日(木) 17:00〜18:00 参加対象:リテール業界、EC/リアル店舗運営のマーケティング担当・責任者 放映方式:zoomによるオンラインウェビナー 参加費:無料 主催:awoo Japan 株式会社 共催:株式会社ブレインパッド
■出演者 ・awoo Japan株式会社 執行役員 吉澤和之 ・株式会社ブレインパッド マーケティング本部長 近藤 嘉恒 ・株式会社フラクタ 代表取締役 河野 貴伸 ・ゼロゼロウエスト 大西 理
コンテンツ
消費者データ集積基盤(CDP)活用で抑えるべきポイント
CDP&MAで陥りやすい3つの罠とは
冒頭、CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)に関する3つの課題について、ブレインパッドの近藤さんが説明しました。
①ゴミデータでゴミ屋敷化
CDPは、自社の顧客に関するあらゆるデータを蓄積・管理するプラットフォームです。しかし、蓄積したデータをマーケティングに活用できず、CDPがゴミ屋敷化しているケースがよく見られます。CDPがゴミ屋敷化する原因は大きく2つあります。
一つ目は、消費者データと購買データ(ERP)を紐づけるための『データ変換』が正しく行われていないという点です。
二つ目は、過去に終売した商品の『商品マスタ(商品コードや型番)』の再利用により商品マスタが上書きされてしまい、正確な商品情報を見ることができないという点です。
②”基礎集計”止まりAI
CDPに消費者データや購買データ、商品データを蓄積するだけでは意思決定はできません。意思決定をするためには各データに紐付く『環境変数』が必要になります。昨今さまざまなAIツールが存在していますが、意思決定に使えるツールなのか、示唆出し(予測)のみを行うツールなのか、ユーザー側とベンダー側の両方において理解が必要です。
③自動化ツールの未自動化
A/Bテストを行うツールは数多く存在しますが、テストの結果A/Bどちらが良いのか判別してアウトプットまで自動で行うことができるツールは多くありません。意思決定はマーケ担当者が行うため、担当者依存のマニュアル運用となり、ツールを導入しても完全自動化までは至らないという実態があります。結果、ツールを使えば使うほどデジタルマーケティングの担当者が疲弊していきます。
出演者の意見
近藤さんが説明した『CDPの3つの課題』について、出演者が議論を交わしました。
ーゼロゼロウエスト 大西さん
「多くのECサイトでは、収集したデータをきちんと活用できていないという現状があります。
その原因は、
- 商品マスタの仕様が現代のマーケティングに適応していない
- 購買データが伝票データの域を超えない
という点にあると考えられます。収集したデータが『マーケティングに使えるデータ』になっているかどうかが、勝てるECサイトの要素になってくるのではないでしょうか。」
ー株式会社フラクタ 河野さん
「事業者側に、データを扱うことができる人材が不足しています。ツールを使って意思決定する人のスキルアップも必要です。」
ーawoo Japan株式会社 吉澤
「『③自動化ツールの未自動化』には特に課題を感じています。ツールを自動化するための設定作業をする時間が取れないというリソース問題です。これは、EC担当者のITスキルうんぬんではなく、そもそも日々の業務が多すぎるからではないでしょうか。」
ー株式会社ブレインパッド 近藤さん
「『Rtoaster』ではゴミデータを溜めない要件定義に加えて、EC担当者がきちんと活用するためのデータセットも行っています。もちろん、すぐには使わないけど目的を持ったデータストックも可能です。各データのハブ的な役割を目指してサービス設計を行なっています。」
商品データ集積基盤(PDP)を顧客体験に生かす方法
顧客体験(CX)とコンバージョンを向上するために、CDPを活用したレコメンドを実施しているECサイトは多いのではないでしょうか。一方で、レコメンドに関する課題も出てきています。
大西さんがメルマガを例にあげて説明しました。
セグメントだけではユーザーの選択肢を狭めてしまう
ユーザーの行動履歴と購買履歴だけでメルマガの内容をセグメントしていくと、お客様の選択肢を狭めてしまいます。大西さんが携わったECサイトでは、月4本のメルマガのうち1本はセグメントせず、さまざまなトピックスを全顧客に配信していました。すると、セグメント配信では得られなかった新しい反応をユーザーから得ることができ、顧客理解が広がったことを実感したそうです。
「人間の趣味嗜好はどんどん変わっていきます。新しい反応や趣味嗜好の変化といったパターン化しづらいことを、顧客理解を進めることでパターン化していく。その繰り返しを愚直に行なっていくことが必要です。」と大西さんは述べました。
「ハッシュタグはお客様の感情を代弁するもの」
『awoo AI』では『ハッシュタグ』を使うことで、ECサイト上での偶発的消費を実現します。大西さんは『awoo AI』の『ハッシュタグ』について「単純にキーワードリンクを追うだけのものではなく、お客様の感情を代弁するものになっている」としました。『awoo AI』の吉澤さんは大西さんの意見に同意し、『awoo AI』を導入したバッグの総合メーカー『ACE Online Store|エース公式通販』におけるCX改善の例を紹介しました。
例えば、『エース公式通販』の主力商品の一つにビジネスバックがあります。ビジネスバッグを見ているユーザーに対して、画像レコメンドをすると真っ黒なバッグが延々と並ぶことになります。すると、どのような違いがあるのかがぱっと見でユーザーに分かりにくく、画像レコメンドは相性がよくないのでは? とACEのEC担当者は感じていたそうです。
そこで『awoo AI』を導入したところ、『#A4』『#機内持ち込み』『#ロック付き』といった機能軸のキーワードを商品ページに表示することが可能になりました。ユーザーにも「こういう機能(キーワード)で探したら良いんだ」という気付きを提供でき、CX改善に繋がりました。吉澤さんは「SNSで活用されているハッシュタグは、偶発性・発見性を伴うアプローチ方法です。今後はこの要素をECサイトにも埋め込んでいく必要があると感じています。」とよ締めくくりました。
レコメンデーションのあり方とは(パーソナライゼーションの再定義)
高度にパーソナライズされた商品だけをレコメンドすると、偶発性が損なわれ、ユーザーに提案できる商品の幅を狭めてしまいます。そのようなレコメンド(パーソナライズ)だけでは楽しい買い物体験には繋がりません。ユーザーの想像を超えるような商品との出会いをいかに提供できるか? が今後のECサイトにおいて重要な要素になります。吉澤さんは「CDPに足りない情報が商品情報の中に眠っているのでは」と感じています。
「実店舗ではさまざまな商品が陳列されているため、商品との新たな出会いが可能です。awoo AIでは商品陳列をハッシュタグに置き換え、『そっと置いておく』ことで偶発性を再現しています。」(吉澤)
それに対し、河野さんは「『偶発的消費』には今後のレコメンドエンジンの可能性を感じている」と述べました。
今後のパーソナライズのあり方
続いて、近藤さんが今後のパーソナライズのあり方について提言しました。
「パーソナライズの形態は『属性(デモグラフィック)』からスタートしています。今は『共感性』を軸にパーソナライズを行っているサービスも増えています。属性・行動ベースのパーソナライズは最低限の接遇であり、来店したユーザーに対する最低限のコミュニケーションルールです。個別の接客においては、パターン化しづらい要素(店員のセンスや嗜好)も重要です。そこは自社独自の『嗜好』をベースにした分析が有効だと思います。」(近藤さん)
さらに、コンテンツを活用して嗜好ベースのパーソナライズに成功した例を紹介しました。「フェリシモさんでは、商品のストーリーテリングを担う読みものコンテンツの重要性を感じながらも、レコメンドに活かせていないことに課題感がありました。そこで『Rtoaster』では、読みものコンテンツを活用したレコメンドの仕組みを裏側で整え、嗜好ベースのパーソナライズを可能にしました。」(近藤さん)
ECの役割はどう変わってきているのか
前述の『エース公式通販』の事例を受けて、大西さんが以下の提案をしました。
「商品を見ているとき、商品ページに書いてあるスペック詳細よりも『#2泊3日』というハッシュタグの方が明らかに視認性が高いですよね。例えばですが、『#2泊3日』のハッシュタグを踏んだ人に対して『2泊3日の旅行・航空券』を提案することもできるのではないでしょうか?」(大西さん)
それに対し、吉澤さんは同意を示しました。
「今日のテーマである『CDP×PDP』でやりたいことはまさにそれです。『#2泊3日』『#機内持ち込み』というハッシュタグを踏んだユーザーを集めて、関連性が高いコンテンツやキャンペーン情報を提供するといったことを実現するために、現在ブレインパッドさんと取り組みを始めています。」
続けて、ブレインパッドの近藤さんは
「どんなに優秀な調理器具(ツール)を持っていても、美味しい料理ができるとは限りません。企業に眠っているデータ(素材)にひと手間加えて下拵えし、実際のマーケティング活動に利用できるように整えることが僕たちベンダーに求められていると感じています。この下拵えの部分が進むことで、今後のECサイトのあり方は変わってくるのではないでしょうか。さらにawoo AIのハッシュタグが加わることで、さらに面白い取り組みができると信じています。」としました。
視聴者からの質問
Q.『CDPが陥りやすい罠』の根本には、手段の目的化があるように感じます。改めて「自分たち(ECサイト)は何がしたいのか?」を定義する必要があると感じました。何かアドバイスをいただけますか?
ー株式会社フラクタ 河野さん
まずは、お客様は「何を求めているのか」「何に悩んでいるのか」を知ることです。その上で、自分たちはどのような価値を提供すべきなのか? という順番で考えるのが大切だと個人的には考えます。
ーゼロゼロウエスト 大西さん
時代はクッキーレスに向かって突き進んでいます。この先、勝てるECサイトになるためにはオウンドコンテンツの整備が必要だと感じています『Rtoater』や『awoo AI』のようなパートナーがいれば、メディアコマース的なアプローチがしやすくなるのではないでしょうか?
Q.ハッシュタグの効果的な管理方法は?
ーawoo Japan株式会社 吉澤さん
『awoo AI』は、自動でハッシュタグを生成します。ですので、ECサイト側はハッシュタグを管理する必要がありません。
Wrap UP
最後に、出演者が本セッションの感想を述べました。
ー株式会社ブレインパッド 近藤さん
コマースサイトの次の世界観は、ブランドのストーリーテリングだと思います。僕ら技術者集団としても、今後のデータ活用において考えていきたいポイントの一つです。また、昨今のECサイトにおいて『ショップスタッフの活用』と『商品の陳列方法(見せ方)』に注目が集まっていますが、今後は『店長のあり方』という視点が必要になると考えています。『どのようなお店にしたいのか・どのお客様にどう接客をしたいのか』について、店長視点でのディスカッションをしてみたいですね。
ーゼロゼロウエスト 大西さん
ECサイトに必要なことは、顧客理解を続けていくこと。顧客理解に最適なソリューションを導入して業務を自動化することで、さらに顧客理解を深めていけるのではないでしょうか。
ー株式会社フラクタ 河野さん
ECサイトのビジネスは、お客様と商品があって初めて成り立つもの。テクノロジーの発展により消費者データと商品データの掛け合わせができるようになったことに対して、ブランディングをする身からしてもとても大きな可能性を感じました。
ーawoo Japan株式会社 吉澤さん
今後のECのあり方について、もっと議論を交わしたいと思いました。今後の「NEXT ACTION of Retail」にぜひご期待ください。本日はありがとうございました!