NEXT ACTION of Retail vol.04「各界のOMO専門家による、OMO責任者のためのOMO相談室」【セミナーレポート】

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2021年8月25日、EC支援セミナー番組「NEXT ACTION of Retail」第四回をオンラインで開催しました(株式会社ランチェスター共催)。OMOの推進にあたり、組織のこと、システムのこと、顧客体験のことなど、様々な課題に直面している企業は多いのではないでしょうか?本セミナーはOMOに関わる一流の専門家の方々をお呼びし、前半ではOMOの基礎知識のキャッチアップを、後半には視聴者からの質問にお答えいただきました。

■開催概要
開催期日:2021年8月25日(水) 13:00〜14:15
参加費:無料
視聴形式:Zoomオンラインセミナー(100名限定)

■出演者
・逸見光次郎 日本オムニチャネル協会理事、株式会社CaTラボ代表 オムニチャネルコンサルタント
・鈴木睦夫 オムニコミュニケーションコンサルティングオフィス President & CEO
・土屋文人 リデザイン株式会社 代表取締役CEO
・田代健太郎 株式会社ランチェスター 代表取締役
・吉澤 和之 awoo Japan株式会社 日本事業開発責任者 執行役員
・石井しおり 九州朝日放送及び北海道文化放送の元アナウンサー

動画をご覧になりたい方はこちらhttps://www.awoo.ai/ja/archived_videos/next_action_of_retail_vol04/

オムニコミュニケーションについて(動画 9:40〜)

 

オムニコミュニケーションコンサルティングオフィスの鈴木氏より、OMO時代における「オムニコミュニケーション」の必要性と課題について説明がありました。

オムニチャネルコミュニケーション

オムニチャネルコミュニケーション

昨今、チャネルとメディアの多様化に伴い、顧客接点も多様化しています。
鈴木氏は、顧客が欲しい商品や情報を、欲しいタイミングでいつ・どこでも手に入れられる環境を作り、顧客とのコミュニケーションをオムニ化することが必要だと述べました。またオムニコミュニケーションを実現すると、かつてはユーザーにとって嫌われ者であった広告も有益な情報に変わるとしました。

しかし、オムニコミュニケーションには課題があります

OMOの課題

  1. オムニコミュニケーション>パーソナライズ オムニコミュニケーションが進むと、パーソナライズが進む。
  2. パーソナライズ>セレンディピティ? パーソナライズが進むと、セレンディピティと逆行する。
  3. 消費の3形態ー能動消費 受動消費 偶発消費 購買単価を引き上げる偶発消費(セレンディピティ)が発生しにくくなる。

オムニコミュニケーションを実現すると同時に、偶発的消費の喚起やショッピングの楽しさをどう提供するかが喫緊の課題だと述べました。

 

OMOを意識した組織作り(動画 16:00〜)

 

続いて、DX推進における組織作りと社内の教育プログラムについて話がありました。OMOを意識した組織作りには、大きく分けて3つのフェーズがあると株式会社CaTラボ代表の逸見氏は説明します。

  1. 黎明期 ECサイト立ち上げ期。各部署の中にEC担当者が1〜2名。店舗業務の延長として取り組む。
  2. 成長期  EC事業部として独立。これまで各部署に点在していたEC担当者が集結する。各部署との断絶が起き、スタンドアローンな存在になる懸念がある
  3. DX推進期 執行役員制に転換し、企業全体が変革する。各部門長は執行役員になり、営業利益やLTVを数値目標として持つ。また、店舗とECの相互支援の評価軸を持つ。
OMO企業組織

OMOに適した企業組織

続いて、各フェーズに応じた社内の教育プログラムについて説明がありました。

OMOに適した教育プログラム

OMOに適した教育プログラム

上の図の<教育プログラム例>のように、新入社員から経営層まで、各個人の業務内容やスキルに合わせて徐々にステップアップできる教育プログラムの導入を逸見氏は提案しています。

 

印刷業界のデジタル化の変遷(動画 21:05〜)

 

OMO時代に突入した現代では、オフラインの顧客接点の一つである印刷媒体も進化を遂げています。このトピックでは、リデザイン株式会社 代表取締役CEOの土屋氏が、印刷テクノロジーの変遷とDM活用の成功事例を紹介しました。

印刷業界のデジタル化

印刷業界のデジタル化

マスマーケティングからOne to Oneマーケティングへ変化する中で、印刷テクノロジーは以下のように進化を遂げました。

  • マスマーケティング時代大量印刷を主とし、情報1単位あたりのコスト削減を重視。
  • セグメンテーションマーケティング時代顧客のセグメンテーションに合わせて印刷内容の一部を差し替える技術、「セレクティブバインディング」という製本技術が誕生。地域ごとの実情に合った広告を掲載する形で活用される
  • One to Oneマーケティング時代顧客一人ひとりに合わせて印刷内容をカスタマイズできる「デジタルプレス」と呼ばれる技術が誕生。

デジタルプレスの成功事例として、大手通販ディノスのDM施策を紹介。顧客がカートに入れたまま忘れてしまった商品を、紙のDMでリマインドすることによりECのコンバージョン率が15〜17%ほど改善したという「カート落ち対策」の事例です。ただ、日本においてデジタルプレスができる印刷会社は多くありません。One to Oneマーケティングを実践する際は、「印刷会社の選定もポイントになる」と土屋氏は述べました。

最後に、土屋氏は印刷物の評価軸について触れました。One to Oneマーケティングに近づけば近づくほど、印刷コストは増加します。社内での評価軸を、「情報1単位あたりの印刷コスト」から、「コンバージョン率への貢献度」などに変更することが非常に重要だと締めくくりました。

 

OMO観点のアプリマーケティング(動画 29:22〜)

 

このトピックでは、株式会社ランチェスター 代表取締役 田代氏がOMOにおけるアプリの役割と成功事例を解説します。

OMO観点のアプリマーケティング

OMO観点のアプリマーケティング

アプリは顧客体験を最適化し、エンゲージメント向上を実現するツールです。上の図のとおり、「顧客がオンライン(EC)とオフライン(店舗)を自由に行き来する間をうまく繋げる、というのが上手なアプリの活用方法」だと田代氏は述べました。アプリの特徴は、一人ひとりのお客様を識別し、オンラインとオフライン両方の行動データを蓄積・分析することが可能という点。

アプリ導入のメリットは、アプリで取得したデータの活用により、顧客理解を深めて顧客に最適なコンテンツやサービスを提供できること。企業側は新しいサポートや、コンテンツのフィードバックなど、循環させることが可能です。

アプリのKPI設計

アプリのKPI設計

最後にアプリの運用責任者に向けて、KPI設定の説明がありました。

「アプリの主な評価軸は、EC会員数とリピーター数です。アプリを介したEC・店舗送客数、LTVと売上の増加といった事業への貢献度まできちんと追いかけることができることを重視している」、と田代氏は述べました。

 

視聴者からの質問(動画 37:00〜)

 

Q:OMOを進めるにあたり、KPI・KGIの設定方法について教えてください。

逸見氏:ライフタイムバリュー(顧客のリピート)と、一般的な財務諸表の数値(売上・粗利・経費・営業利益)の組み合わせが有効です。

ECは店舗に比べて経費の変動が大きいので、利益が薄くなりがちです。しかし、ECを通じて店舗に送客し、売上に貢献するということも多いですよね。ECと店舗の相互支援評価も財務諸表とは別軸で作っておくと良いと思います。

鈴木氏:売上というのは、「客数×購買回数×客単価」です。チャネルごとの売上管理から、一顧客あたりの売上・利益・リピート数・客単価を管理するといった大転換が必要です。そして、顧客の売り上げに対して各チャネルがどう貢献したか、という考え方にしたら良いと思います。

逸見氏:合計の数字は一緒だけど、中身の分解の仕方を変えるという考え方ですね。

鈴木氏:どこから手をつけたら良いかわからない、という場合に有効です。

Q:OMOの重要性は理解しつつも、うまく進められないという企業が多いと思います。まずは何から始めたら良いでしょうか?

逸見氏:まずは、財務諸表の分解をおすすめします。手順としては、

  1. 財務諸表から各部署の売上と粗利を洗い出す(縦軸)
  2. 各部署を横断する共通業務を洗い出し、「ここは一緒にやっているよね」と理解を促す(横軸)
  3. 共通業務の売上と粗利を部署をまたいで合計してみるなど、どのように相互貢献したかを「見える化」する
  4. LTVなど顧客軸の数字に落とし込む

経営層に理解を得るには、この方法が有効です。

鈴木氏:僕が支援した企業でも、最初にファイナンス部門に協力を得ることでうまくいった例があります。彼らはPLの分解に長けているので、経営者に理解を得られるようなマイクロPLを作ることができます。

社内の共通言語は、「KPI」や「KGI」といったマーケティング用語ではなくファイナンスの数字です。マーケターがPL・BSを理解し、ファイナンスの数字で話すことができれば、社内・社外への説得力と浸透力は間違いなく向上します。

Q:物流視点のOMOについて教えてください。

逸見氏:物流におけるOMOには、

  1. 在庫管理
  2. お客様に届けるラストワンマイル

の2つがあると考えます。

まず在庫管理です。理想は、商品部と管理部門が店舗とEC含め全社在庫を把握し、その中を自由に移動できる状態にすることです。「これはECの在庫」・「これは店舗の在庫」というようにラベル付けしてしまうと、会社全体で在庫回転率が下がってしまいます。

次に、お客様にお届けする方法について。大きく分けて、店舗受取と自宅への配送の2種類がありますよね。自宅への配送では、これまでの倉庫からの出荷にだけではなく店舗からの出荷に注目しています。

例えば、ZARAは店舗在庫をEC在庫とし、店舗で梱包して自宅へ配送するというマイクロフルフィルメント化を進めています。このように店舗で注文情報とお客様の情報を管理できる状態が、今後は必要になると思います。

鈴木氏:今後、メーカーからの直接配送という流れは加速するでしょうね。特に消費財を扱い企業様は、サプライチェーンマネジメント(SCM)の観点で、ユーザー情報の蓄積とデータ統合ができるように準備しておくと良いと思います。

Q:オフライン媒体(印刷物)において、どのようなコスト・アロケーションが有効でしょうか?

土屋氏:まずは効果測定について、単なる印刷コストではなく、情報1単位あたりのリターン率という評価軸に変える必要があります。また、カタログやチラシの配布量をギリギリまで減らすということを単価交渉の前にするべきです。カタログの印刷費よりも、郵送費用の方が明らかに高いんですね。

鈴木氏:見られないDMをなくすことが理想ですよね。そのためには分厚いカタログを大量に送付するのではなく、One to Oneコミュニケーションに基づき一人ひとり違うカタログを送れば良いと思います。一冊あたりの印刷コストは高くなりますが、絶対にトータルのコストは下がります。紙も印刷代も配送代も減らせますしね。

田代氏:結局、誰にどのタイミングでどのように届けるか、という話ですね。

アプリのプッシュ通知よりも、きちっとしたデザインの紙で特別なメッセージが届く方が絶対に嬉しいですよ。それをデジタルで把握して最適化していくのが重要なんじゃないかなと思います。

Wrap-Up

Wrap-Up

本セミナーには、視聴者から多くの質問が寄せられました。セミナー内で回答できなかった質問は、登壇者から個別に回答すると案内し、セッションを締めくくりました。

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